2009年08月22日

「子ども心と町の空」

No.88

「金田、なんか西田に気に入られたみたいだぞ。」
「ええ!?ほんとに?怖いしいいよ、僕は。」
「ははは、面白いよな、カネッチは。」
「はぁ?カネッチ?」
「面白いから今日からカネッチって呼ぼうっと。」
「なんだよそれ、なんでも“ち”を付ければいいと思ってるね。」
「いいじゃんか。ウッチーにカネッチ!」
「それじゃ、僕も付けてやるよ。ヨッチー。」
「なんか変だぞそれ、よちよち歩きの赤ちゃんみたいだな。」
「だってその通りだよ。幼稚なヨッチー。」
「いや~うまい!」
「馬鹿にしてるのに、まったく堪えてないところがすごい・・・。」
「そういば、しばらくスズキさんに行ってなかったから今日行くか!」
「いいね。行こうよ。」

会場を出て学校に帰り、先生の話を聞いた後、解散となった。
金田と森山はそれぞれ家に帰って着替えをし、約束のスズキさんへ向かった。

「こんちわー、おばちゃん。」
「ああ、久しぶりだね。よっちゃん。金田くんも。」
「うん、こんにちは。ペプシください。」
「はいよ!」

いつもの調子で軽快に栓を抜くおばちゃんの姿を見て金田はなぜかホッとした。
いつものように栓の裏をめくり、あたりかどうかを確認したが、やはりはずれ。

「残念!ねえおばちゃん、また捨ててある栓を見てもいい?」
「ああ、いいよ。熱心だねぇ。」

金田はお客さんが捨てた栓がある缶の中を探し始めた。

「おい、カネッチ、絶対無いって!みんな見てから捨てるんだからさぁ。」
「いや、そんなことないよ。めくらない人もいるかもしれないよ。」
「はいはい、ガンバってなぁ・・・。」

大量の栓を一つ一つめくり、あたりがあるかどうか確認するのは面倒だが、とてもわくわくして楽しいものだ。
それがとても確率が低くても、もしかして・・・という期待感がある。
金田はスズキさんに来る度に確認しているのだが、まだ一度もあたり引いたことが無く、今回も期待をしながらも、めくり続けた。

「あ!」

突然大きな声を上げた金田に森山は驚いた。

「おい、なんだよ、びっくりしたなぁ。」
「ねえ、見て見て、あたりがあったよ!」
「お!本当だ。」
「やったー。もう一本だぁ。」
「やったなぁ、カネッチ!本当にあるとは思わなかったぞ。」
「よかったぁ。」

金田は誇らしげにおばちゃんにペプシを請求した。

「よかったね、金田くん、はいどうぞ。」
「ありがとう。」

そう言ってもう一本飲みほし、スズキさんを出た。

「カネッチ、やったな。」
「うん、今日はラッキーだったね。」
「そうだな。」

金田は見つけたあたりの栓が、すでにめくれていた事が少し気になっていた。
まあ、誰かがよく見ずに捨てたのかもしれない。
そんな事を思いつつも、森山との楽しい会話の中で、その事は少しずつ忘れていった。
そして二人は家路を急いだ。
彼らの数か月にわたる奇妙な出来事は幕を閉じた。
空は赤く染まり、秋の装いを始めていた。

次回は第4章(最終章)です。


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