2010年07月13日

「金田くんの冒険紀」

No.16

竿ごと持って行かれそうになるほど強い引きが金田を襲った。
竿を支えるどころの話ではなく、こうなるとどうしようもない。

「やばい、このままじゃ糸がきれちゃう・・・。どうしよう!?・・・そ、そうだ、糸を出さなきゃ!」

とっさにドラグを緩めた。(ドラグとはリールの回転部分を緩めるネジ)
竿のしなりは無くなったが、糸がものすごい勢いで出ていく。
暫くは大丈夫だが、糸を出し切るとまた切れる可能性がある。
このままでは逃がしてしまう。
竿を握ったまま棒立ちになっていたが、ふといつも読んでいる釣り漫画の1シーンを思いだした。
まさしく今のこの状態とそっくりだった。

「そうか、こんな時は自分の方から水に入って行けばいいんだ。」

金田は竿を抱え、片手で靴や靴下を脱ぎ、とてもきれいとは言えない灰色の沼へ入って行った。

「う・・・なに!?このヌメヌメした感じ・・・気持ち悪い・・・。」

気持ち悪くても、せっかく当たった大物を逃がすわけにはいかず、少しずつ進んでいく。
しかし当然の事ながら沼は深くなっていて、そろそろ限界だ。
そう思ってあきらめかけた頃、糸の出が止まった。
チャンス到来。
金田はドラグを固定し力の限りリールを巻き始めた。
かなり重たいが少しずつ巻ける。

「よーし、なんとかいけるかも。・・・絶対釣ってやる!」

糸を出したり巻いたり、暫くはこのやりとりが続いた。
数十分が経った頃、少し沖の方で水面が大きく盛り上がり、背びれのような物が見え隠れした。
それはとても雑魚の物とは思えない大きさだ。
映画に出てくるサメを髣髴させるような巨大な背びれだった。
それを見た金田は背筋が凍りつくのを感じた。

「ど、どうみても2mどころじゃない・・・。」


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