2009年07月17日

「子ども心と町の空」

No.75

役員の警告に仕方なくそれぞれのサイドへ帰ったが、金田の興奮は暫くは治まらなかった。
競技は再開され、西田の順番が回ってきた。
スタート地点に着いた彼は、何を思ったか、金田の方を見て一笑した。
当然金田も彼を睨みつけていたが、先ほどのような興奮はないようだ。
西田の助走は力強く、完璧な踏切りで砂場に着地した。
結果は4m78cm。
会場からは歓声が上がったが、金田は驚くどころか、平静に西田の一挙一動を見ていた。

「金田君?大丈夫?なんかぼーとしてる?」
「え?なに?かずくん?」
「なにって、さっきはどうしたの?今は今でぼーとして!?」
「そう!?」
「そうだよ。」

さっきとは違って、この結果に反応しない金田を見た西田は、どうも気に入らないようだ。
苛立ち始めた西田は部員に当たり始めた。

「なんだ、あいつ、気に食わないな・・・。」
「なにをビビってんだよ。この距離なら勝てないさ。」
「あぁ?誰がビビってるって?ふざけんなよ。」
「なんだよ、そんなに怒んなよ。まったく。」

西田サイドの様子が気になっている内山だが、なぜか金田は冷静になっていた。

「かずくん、気にしない方がいいよ。あっちはあっち、こっちはこっち!」
「え?金田くん、ずいぶん落ち着いちゃったね。」
「そう?」
「う、うん・・・?」

内山は金田の変貌ぶりがどうも腑に落ちなかった。
競技は2順目になり、次は金田の番だ。
金田は前回とは別人のように落ち着いてスタート地点に立った。
軽くスタートを切り、風のように助走・・・。
踏み切り台を蹴った姿を見て夏木はなにかを感じとった。

「あれ?なんとなく何所かで見たような・・・。」

西田の顔は青ざめた。
記録は、4m88cm。


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